「唐辛子は辛いだけの食べ物ではない。そのなかには、甘味、香り、そしてえもいえぬ旨味がある。ビャーダギ・チリを食べるとき、ぼくは、その奥深い味と歴史、故郷を奪われた人びとの記憶を噛みしめている」
今回は「辛さ」のスパイスの代表格「チリ」、つまり唐辛子だ。世界中の辛い料理はだいたいチリのせい。でも、辛い料理の代表のインド料理でさえ、唐辛子が伝わったのは大航海時代で中南米からもたらされたあとのこと。インド料理が辛い、というのはけして自明のことではないのだ。
そんなインドで少年時代を過ごした著者は当初、辛いものが苦手であった。少しずつ慣らしていきながら、「ドラゴンロール」なる青唐辛子の春巻に火を吹き、土鍋料理を試すうちに豆板醤の辛味のなかに旨味が隠れていることを発見。そしてついには、灼熱のアーンドラで、スイカの皮を唐辛子などとともに漬け込んでキムチをつくることに成功する。
また、様々な種類のチリを紹介。そこから、風味や香りの似通ったふたつのチリを俎上に載せ、それを各地に運んだかもしれないコンカニー族の不運の歴史を想像する。このひと(矢萩多聞)はいったいぜんたい装丁のしごとをいつやっているのだろうかというほどの博識に驚かされる。
また、今回の「日本の食べものにスパイスを足して未知との遭遇をはたす実験コーナー」は「そうめんに合うスパイス」。
目次
- 前口上 ノー・チリ、ノー・ライフ?
- きみはまだカラムーチョさ
- ドラゴンロールで火を吹く
- 十三歳にして土鍋にハマる
- インドでキムチをつくる
- 夜道には唐辛子を持っていけ
- マフィアと激辛
- 唐辛子がむすぶ点と線
- そうめんにあうスパイスを求めて
- お調子者のレシピノート(チリ編)
- あとがき